相続人が誰もいない不動産の売却方法
「購入したい不動産があったので所有者を調べたら既に亡くなっていた。」
「亡くなった方にお金を貸していたけど返してもらえないままになっている。亡くなった方の不動産があるのでなんとか貸したお金を回収したい。」
など、亡くなった方の不動産の処分に困ることがあります。
相続人がいれば相続人と交渉すればよいのですが、相続人が誰もいなければどうすればいいのか悩んでしまいます。
この記事では、亡くなった方が不動産をもっているけれど相続人が誰もいない場合の管理や処分の方法について解説します。
相続財産管理人を選任して管理・処分
亡くなった方が不動産を管理・処分することはできないので、相続人がいない場合は相続財産管理人を選任して相続財産管理人が相続財産を管理し、あるいは処分することになります。
相続財産管理人とは
亡くなった方に相続人がいることがわからない場合には亡くなった方の財産は「法人」とみなされます。
この法人を「相続財産法人」といいます。
この相続財産法人の財産を管理するのが財産管理人の役目です。
相続財産管理人は、検察官または利害関係人から、亡くなった方の最後の住所を管轄する家庭裁判所に選任を申立てます。
この場合の利害関係人とは、相続債権者や特別縁故者などです。
ただ「不動産を購入したい」だけであれば利害関係人にならない可能性があるため、申立にあたって弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。
申立を受けた家庭裁判所は、申立にあたり候補者の推薦があれば被推薦人の選任の適否を含め、多くは弁護士や司法書士から適任者を選任します。
なお、申立にあたって管理費用を予納する必要があり、亡くなった方の財産によりますが、一般的には20万円~100万円程度の額を家庭裁判所が決定します。
相続財産管理人の職務
相続財産管理人の主な職務は次の業務です。
● 相続人の捜索
● 相続財産の管理・清算
具体的には相続財産管理人に選任されると下記のような業務を順次行ないます。
● 亡くなった方の財産を調査し財産目録の作成
● 亡くなった方の相続人や債権者などを捜索するための公告の申込
● 亡くなった方が所有している不動産の「(亡)〇〇相続財産」とする名義人表示変更の登記を申請
相続財産管理人の職務は、亡くなった方の財産の清算なので、債権者や特別縁故者などの利害関係人に財産を譲渡して、残った財産を国に渡すまで完了しません。
亡くなった方の財産によって職務期間は異なりますが、早くても1年はかかります。
売却の流れ
相続財産管理人は財産の処分の方法として、競売または任意に売却をします。
多くの場合は、債権者が申立てた競売の相手方として職務を行います。
任意での売却は、家庭裁判所の許可を得る必要があるので、売却の必要性や売却価格の妥当性などを示したうえで売却の許可(権限外の行為をすることの許可申立)を求めます。
新しい相続財産管理人制度がはじまります
以上、現行の相続財産管理人制度について解説してきましたが、2021年に民法が改正されて新しい相続財産管理制度が始まります。
新しい相続財産管理人制度はいつから始まる?
改正後の相続財産管理制度は令和5年4月1日からスタートします。
新しい相続財産管理人制度
改正された民法では、家庭裁判所は、相続財産の保存に必要な場合に、相続財産管理人の選任や必要な処分を命じることができることとされ、相続財産管理人の制度が変更されました。現行法では、相続放棄や限定承認の場合には相続財産を保存するための財産管理の制度はあったものの、その他の場合に相続財産を保存する役目を担う制度がありませんでした。そのため、相続人が単純承認をした後遺産分割をするまで相続財産の帰属=責任の所在が明確でないために、相続人が相続財産の管理に関心をもたなければ放置され相続財産の土地や建物は荒れてしまい、近隣に迷惑をかけ周辺環境に悪影響を及ぼすことがありました。 また、現行の相続財産管理制度の主な目的は「相続財産の清算」にあったため、手続きが厳重で費用もかかるために相続財産の保存管理には利用できない場合がありました。
以上のことから相続財産の保存を目的とした相続財産管理人を選任することができる制度が必要とされ、今回の改正により新たに設けられたものです。
保存管理人と清算人
民法改正後は現行の相続財産管理人は相続財産の「清算人」となり、新しく「相続財産管理人」が、相続財産の帰属が明確になる以
下の場合を除いて、相続財産の保存が必要なときに選任されることになります。
1. 相続人が1人で単純承認をした場合
2. 共同相続で相続財産全部の分割協議がされた場合
3. 相続財産清算人が選任されたとき
改正後の相続財産管理人は、相続財産を保存することが職務なので、原則的に相続財産を処分することはできません。
ただし、相続財産を保存するための費用をつくるために相続財産の一部を処分することもあり、処分することが適正であれば家庭裁判所の許可を得て売却することも可能でしょう。
なお、新法による相続財産管理人が選任された場合には上記のように相続人が存在する場合もあります。
この場合、相続財産管理人が選任されたからといって、直ちに相続人の財産処分権が制限されるわけではありません。
買受希望者からの専任申立
改正後の相続財産管理人は、相続財産の保存が目的なので、原則的に相続財産の処分は行いません。
そのため、相続財産の不動産を購入したい方や借りたい方からの選任申立は認められません。
購入希望者や借りたい方は、利害関係がある相続人や隣地所有者などを通じて相続財産管理人の選任申立ができないか検討しましょう。
財産管理制度には「所有者不明土地・建物管理制度」や「管理不全土地・建物管理制度」などもあるので、これらの制度が利用できないかもあわせて検討してみるとよいでしょう。