いらない土地の処分方法
親が亡くなって土地を相続したど、すでに自分の不動産を所有しているのでこれ以上はいらない、今まで所有してきたけど固定資産税や維持管理が負担になってきたので手放したい、等と考えることもあると思います。今回はいらない土地の処分方法について解説します。
持ち続けるデメリット
いらないと思いながらそのまま所有し続けることには、デメリットがあります。不動産には所有しているだけで固定資産税がかかりますし、維持管理をしなければならないからです。
固定資産税
不動産には所有しているだけで固定資産税がかかります。固定資産税は所有している事実に対する課税ですから、その土地が利益をうみだすか利用価値があるかを問わずに課税されます。そのためいらない土地を所有しているだけで負担がかかることがデメリットになります。ただし、評価額が30万円に満たない場合には固定資産税はかかりません。
(固定資産税の免税点)
第三百五十一条 市町村は、同一の者について当該市町村の区域内におけるその者の所有に係る土地、家屋又は償却資産に対して課する固定資産税の課税標準となるべき額が土地にあつては三十万円、家屋にあつては二十万円、償却資産にあつては百五十万円に満たない場合においては、固定資産税を課することができない。ただし、財政上その他特別の必要がある場合においては、当該市町村の条例の定めるところによつて、その額がそれぞれ三十万円、二十万円又は百五十万円に満たないときであつても、固定資産税を課することができる。
維持管理・災害のリスク
土地を管理しないで放置していればさまざまなデメリットがあります。雑草が生え放題であれば害虫や野良猫などがいついてしまい近隣から苦情がくるおそれがありますし、のり面であれば崩落の危険もあります。雑草が生え放題であればゴミを捨てる罪悪感もうすれ不法投棄されやすくなり、野良猫や害獣が住みついてしまうおそれがあります。
最近では地方の土地で太陽光発電システムを設置しているところもありますから、これらの近くに野生動物が住みついてしまうと太陽光発電の機械器具をこわしてしまうおそれがあるのです。野良猫などが住み着いて、その数が多くなれば近隣住民から苦情が寄せられることになってしまいます。
のり面が崩落して下にある民家や通行人に被害が及べば損害賠償を求められることにならないとはいえません。2020年4月には「土地基本法」が改正施行されたこともあり、所有の意思を問わずに所有者が土地の管理責任を負うことになっていますから、注意しましょう。
(土地所有者等の責務)
第六条
1土地所有者等は、第二条から前条までに定める土地についての基本理念(以下「土地についての基本理念」という。)にのっとり、土地の利用及び管理並びに取引を行う責務を有する。
2 土地の所有者は、前項の責務を遂行するに当たっては、その所有する土地に関する登記手続その他の権利関係の明確化のための措置及び当該土地の所有権の境界の明確化のための措置を適切に講ずるように努めなければならない。
3 土地所有者等は、国又は地方公共団体が実施する土地に関する施策に協力しなければならない。
処分方法
いらない土地を既に自分で所有している場合と、相続をした場合では対処の仕方が異なります。相続をした場合には相続放棄をする選択肢があるからです。
既に所有している場合
既に所有しているけれど利用価値もないし、遠いところにあるのでなかなか行くこともできず管理もできない土地であれば次の方法で処分できないか検討しましょう。
1. 売却
2. 贈与・寄付
3. 所有権の放棄
売却
土地であれば売却することが可能です。ただし、所有者がいらないと思っている土地ですから売却するには工夫が必要になります。所有するには先のようなデメリットがあるため購入希望者は限られます。デメリットがありながら売却を検討するには買主候補を考えてみましょう。例えば隣地の方であれば、所有土地の利便性を高めることができますし、購入して広くなれば用途も広がるメリットがでてきます。また、売却希望価格についても検討しましょう。いらないと思っている土地ですから、高く売りに出して、売れずに所有期間が延びるよりは、思い切って安く売りに出し、早く手放すことも選択肢です。売却にあたって複数の不動産会社に査定を依頼することも忘れてはいけません。
贈与・寄付
いらない土地であれば無償で贈与や寄付をすることを検討しましょう。売買代金を支払ってまでほしいとは思わなくても、無償であればもらってもよいという方はいる可能性はあります。
贈与をするのであれば先ず親族や近所の方に相談してはどうでしょうか。土地の近くに住んでいれば行きやすく管理もできますし、畑を作るなど利用することがある可能性があります。
寄付の場合は、国や市区町村が候補になりますが、地方公共団体への寄付は難しいと考えてください。道路用地や公園を予定しているなど、行政目的がなければ固定資産税の税収が減り、所有することでデメリットもあるためなかなか寄付は受け付けてもらえません。
国に土地等を寄付したいと考えていますが、可能でしょうか : 財務省
なお、寄付する相手が法人の場合には、寄付した側に税金が発生するおそれがありますから注意しましょう。個人や自治体に贈与や寄付をする場合には贈与や寄付をした側には課税されませんが、一般の法人に寄付をした場合は寄付した側にみなし譲渡所得が課税されます。
No.3108 国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人に財産を寄附したとき|国税庁
所有権の放棄は可能?
あれこれ考えるのは面倒だからいっそのこと放棄できないでしょうか?残念ながら土地をゴミのように捨てることはできません。土地の所有権を放棄することは可能ですが、放棄した後の帰属が難しいからです。いらない土地が共有であれば、共有持分を放棄すれば他の共有者に帰属します(民法255条)。
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しかし登記をするには他の共有者の協力が必要です。不動産登記は原則として贈与した方と贈与を受けた方が共同して申請をすることになります(不動産登記法第60条)。
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そのため他の共有者がいらない協力しないとなれば、せっかく共有持分を放棄したとしても登記ができないためそのままになってしまいます。また、所有権を放棄すればその土地の所有者がいなくなりますから、理論上は国の所有になります(民法239条)。
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しかし先のように不動産登記は共同申請が原則になっていること、また国であれば嘱託登記として権利者となる国が単独で登記申請を行なうこともできるのですが(不動産登記法116条1項)、国としてもいらない土地はほしくないためこのような手続きに協力をすることはありません。
相続した場合
相続をしたけれどデメリットを考えると欲しくないと考える方には相続放棄をする方法があります。また、新しく国に寄付をうけてくれるように要求できる制度ができました。
相続放棄
相続が開始したこと(名義人が亡くなったこと)を知った時から3ヶ月以内であれば相続放棄をすることができます。しかし、相続放棄をするには注意が必要です。相続放棄は亡くなった方の財産全てを放棄することですから、この財産は相続するけれどこの財産はいらないと選択することができません。そのため、亡くなった方に預貯金や価値がある不動産など相続したい財産がある場合にはいらない土地があるからといっても、相続放棄をしてしまえばほしい財産も相続することができなくなってしまいます。また、相続放棄をすると次の順位にある方が相続します。子や孫が放棄をすれば亡くなった方の親(直系尊属)が相続し、親が亡くなっていれば亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になります。そのため相続放棄をすることで迷惑をかけるおそれがありますから、相続放棄をする前に相談をし、少なくとも教えてあげておくほうがよいでしょう。なお、相続放棄をしても管理責任は残ります(民法第940条)から、注意してください。相続人全員が相続放棄をした場合には、最終的には所有権は国に移ります。(民法 959 条)。
この国への帰属をきちんと進めるためには、相続人全員が放棄した後に相続財産管理人を家庭裁判所に選任するように求めます。選任された相続財産管理人は、亡くなった方の負債等の清算を行ない、最終的に残った財産が国のものになります。相続財産管理人には報酬を支払う必要がありますから、管理人選任にあたって費用を予納する必要があり、選任を申立てる方が負担することになります。予納費用は亡くなった方の財産によりますが、数十万円〜数百万円になることもありますから慎重に検討してください。
国に寄付要求(新制度)
相続や遺贈によって相続をした方は国に対して土地の寄付を受けるように要求できることになりました。地主不在の所有者不明土地が増えすぎたために、その解消を目的として相続登記を義務化することと並んで新しくできた法律です。この法律は令和5年4月27日から施行されることがきまりました。この法律により、相続又は遺贈により取得することになった相続人から請求し、法務大臣が承認の判断をします。
しかし、審査基準がとても厳しいことと10年分の土地管理費用を支払う必要があることが利用を難しくしています。審査基準は次のようになっており、こちらの基準に当てはまる土地は寄付を受け付けてもらえません。
一 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
二 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
三 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
四 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
五 前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 | e-Gov法令検索