建物が登記されていない!
売却できる?登記とは?

 相続した実家を売却しようと調べてみたら登記がされていないことがわかりました。このような場合にそのまま売却できるのでしょうか?
 今回は登記されていない建物をそのまま売却できるのか、登記する意味を解説します。

建物は登記されていなくても売却は可能

 建物はたとえ登記がされていなくても売買の対象とすること自体は可能です。ただし、建物が登記されていないことで注意しておかなければならないことがあります。なお表題登記がされていない建物を「未登記建物」と言います。

未登記建物を売買するときの4つの注意点

 建物の売買自体は登記をされていなくても可能ですが、以下のような注意点があります。
 1. 売買の目的物をはっきりと特定することが必要
 2. 買主が建物を使用する予定がなければ登記をする必要はない
 3. 登記できない建物もある
 4. 登記がされていないことによるデメリットがある

 1.売買の目的物をはっきりと特定することが必要
 売買契約書を作成し、契約書には売買目的の建物が建っている場所(地番)、構造、面積などによって売買の目的物をはっきりと特定することが必要です。売買の対象がきちんと特定されていなければ後日トラブルになるおそれがあります。この点、登記がされていれば登記記録に基づいて記載することで特定できますから特定が容易になります。

 2.買主が建物を使用する予定がなければ登記をする必要はない
 買主が建物を利用する予定がなく建物を取り壊す場合には改めて登記をする必要はありません。建物登記がしてあれば建物が滅失したことの登記が必要になりますから、あえて売買のために表題登記をすると余分な手間と費用がかかります。このように買主が建物を使用しない場合には建物の登記がされていないことは支障になりません。建物を取り壊せば解決するからです。

 3.登記できない建物もある
 登記できる建物は「不動産である建物」です。不動産といえるかは様々な要件がありますが、基礎がないプレハブや簡易な物置などは不動産とはいえないため登記できません。

 4.登記がされていないことによるデメリットがある
 登記されていない建物を売買するにはいろいろなデメリットがあります。次の項で改めて解説します。

登記されていないまま売却する5つのデメリット

 建物の登記がされないまま売買する場合には、以下のようなデメリットがあります。
 1. 登記されていなければ誰のものかわからない
 2. 買主が登記するには売主の協力が必要
 3. 買主が銀行から融資を受けられない
 4. 固定資産税の納税者が変わらない
 5. 第三者に対抗できない

 1.登記されていなければ誰のものかわからない
 登記がされていれば登記事項証明書をみることで所有者であることがわかりますが、登記がなければ果たして売主が本当の所有者かどうかが確認できません。売主が土地の所有者であっても建物は借地人の所有かもしれませんし、何代も前の故人が所有しているものである可能性があります。他人物の売買も可能であるとはいえ、買主が実際に有効に所有権を取得するために相当な苦労をするおそれがあります。

 2.買主が登記するには売主の協力が必要
 未登記建物を購入した買主が建物登記をするためには、売主の協力が必要です。建物登記をするためには申請人が建物の所有者であることを証明する必要があるからです。
 例えば、建物の建築確認書のうえで建築主がAとなっていれば所有者はAであることが推定されます。建物工事が完了して工事会社から引き渡しをうけることでAが所有者になります。そしてAが亡くなった場合にはAの相続人が所有権を承継します。このような場合に所有権を証明するには次のような書類が必要です。

 1) 建築確認書
 2) 工事会社の工事完了引渡証明書
 3) 亡Aの相続人全員がわかる戸籍などの相続資料
 4) 相続人全員から買主に譲渡したことの証明書(印鑑証明書付き)

 以上のような書類が必要になり、万一必要な資料をそろえることができなくて建物の登記ができない場合に、売買が終わった後であれば売主が必ず協力してくれる保証はなく資料がそろわない危険を買主が背負うことになってしまいます。このようなリスクを負わないためには、売買前にきちんと売主において建物登記を済ませておくことが重要です。

 3.買主が銀行から融資を受けられない
 建物が登記されていなければ買主は銀行から融資を受けられないおそれがあります。買主が銀行から不動産購入ローンを利用して借り入れする場合にはほとんどの場合、担保設定の登記が条件になるからです。そのため建物が登記されていなければ担保設定登記をすることができないことから銀行からの借り入れができなくなり売買代金を支払うことが困難になってしまいます。

 4.固定資産税の納税者が変わらない
 登記がされている不動産を売買して所有権移転登記を行えば法務局から市区町村役場に向けて通知がなされますから翌年から自動的に新しい所有者宛てに課税されます。しかし、登記がされていなければ市区町村役場では所有者が変わったことを把握できないことがあり、何もしなければいつまでたっても売主宛に課税されてしまいます。そのため未登記建物の所有権が移転したときには移転したことを市区町村役場に届け出る必要があります。
 登記されていない建物を取り壊した場合も同様に、市区町村役場が、建物が取り壊されてなくなったことを把握できなければずっと課税されることになりますから、取り壊した場合にも念のために市区町村役場に届け出ておくと安心です。

 5.第三者に対抗できない
 登記の重要な効力に「対抗要件」が備わることがあります。対抗要件とは、第三者に対して自分の権利を主張することができる条件をいいます。
 例えば、売主がA・B二人に同じ建物を売った場合には建物の登記を先にした方が所有権を有効に主張できることになります。登記がない建物を売買して、万一売主が他人に今回の売買対象である建物を重ねて売却をし、その他人が先に建物登記をした場合には買主は建物の所有権を取得できないことになります。敷地の土地と建物をセットにして購入したのに他人の建物の存在を認めざるを得ませんから重大な損失になってしまいます。また、借地上にある建物は建物の登記があることが借地権の対抗要件です。地主に対して借地権を主張するためには建物の登記を取得していることが絶対条件ですから、借地上の建物を売買する時には建物の登記は必須事項になります。

登記とは

 さて、ここで登記とはどういったものなのかを解説します。
 登記記録の構成
 登記記録は3つの枠と附属記録とで構成されています。
 1. 表題部
 2. 甲区
 3. 乙区
 4. 附属記録

 1.表題部
 土地や建物の不動産がどこに(所在・地番)あり、何の用途で(地目・種類)、どのくらいの広さ(地積・床面積)で、建物はどのような構造であるかを表示しています。表題部登記記録の付属資料として土地測量図や建物図面が備え付けられています。

 2.甲区
 所有権や差押などが記載される枠です。

 3.乙区
 抵当権などの担保権に関する事項や借地権などの用益権などが記載される枠です。

 4.附属記録
 共同担保目録、信託に関する記録などがあります。

 表題部がなければ甲区、乙区が編成されません。このため未登記建物のままでは所有権移転の登記や担保設定の登記ができないことになります。売買を行い、所有権移転登記をするためには建物の表題登記と売主名で所有権の登記がされていることが必要です。

未登記とは

 「未登記」を今まで表題登記がされていないことを指して解説をしました。登記がされていない状態は変更があったことを自ら法務局に申請しない限り解消されません。
 ・以前あった建物を取り壊したのに取り壊したことの登記(滅失登記)がされていない
 ・建物を増築したり一部取り壊したりしたことの登記がされていない
 ・建物の用途の変更(居宅から事務所への種類変更など)
 ・相続登記や住所変更登記
 ・担保の抹消登記など売却に必要な登記がされていない

 このような場合もいわば「未登記」の状態です。このうち、相続登記や住所変更登記、担保抹消などの登記は売買代金の授受に先立ってあるいは同時に必ず登記を行う必要がある事項です。買主が金融機関から融資を受けて担保設定を求められる場合には建物の登記事項について変更があればその変更登記をすることが求められます。

表題登記は義務

 実は、表題登記は法律上必要な「義務」となっています。新築した建物を取得した日から1ヵ月以内に表題登記を申請することとし、その申請を怠った場合には10万円以下の過料により処罰されるおそれがあります(不動産登記法47条、164条)。

 しかしながら実際には未登記建物は多数存在しています。
 ・登記をする必要を感じない
 ・借入がないから担保設定の必要がない
 ・面倒だから
 ・費用がかかるから

 未登記建物が多くある理由として、このように感じている方が多いこと、登記制度が変わった昭和25年以前に建てられた建物は新しい登記制度に移行する手続きがされていないことで未登記状態にあること、また当時は住宅ローンなど個人が銀行から借り入れる慣行がなかったために融資に伴う担保設定の必要がなかったという社会事情もあります。

登記の効力

 登記の効力として対抗力、権利推定力、形式的確定力があると言われています。対抗力については先に解説した通りです。
 権利推定の効力とは、登記された事項は真実であると推定されることを言います。形式的確定力とは、登記された事項は有効無効を問わずその登記事項を前提として次の登記に進まなければならないことをいいます。推定力と確定力によって、登記記録に所有者だと記録されていればその人が実体的な所有者であると推定され、万が一真実の所有者でなければ一度その人を抹消あるいはその人から移転する登記をしなければ真実の所有者の名義にすることができないことになります。

建物登記をする方法

 建物の登記は所有者が自身で行なうことができますし、忙しいときや面倒に感じるときには専門家に依頼することができます。建物の表題登記の専門家は土地家屋調査士であり、権利に関する登記の専門家は司法書士です。

 自分でする

 登記の手続きは自分で行なうことが原則です。法務局のホームページに申請書の参考書式がありますから利用しましょう。
 しかしながら、建物表題登記では次のような点が難しく感じます。建物全体が土地に対してどのような形で建っていて面積はいくらか、各階の面積と形はどのようになっているか、が登記事項になっています。それぞれの測量を行ない図面を提出しなければなりません。また申請人が所有者であることを証明する資料を準備する必要があります。新築であれば建築確認書、検査済証、工事完了引渡証明書などを準備します。年度が改まった建物の場合には固定資産税の課税証明書および納税証明書なども所有権証明書の一部として利用することができます。権利に関する登記申請は参考書式を参照すれば比較的容易にすることができます。ただし、実体的な権利の変動について注意をしなければなりません。相続については相続関係を把握することを難しく感じることが多いです。

 土地家屋調査士に依頼する

 測量をしたり図面を書いたりすることが難しい場合には土地家屋調査士に建物表題登記を依頼しましょう。建物の規模や複雑さによって費用は変わりますが、通常8万円前後から必要になります。

 司法書士に依頼する

 権利の登記には登録免許税を法務局に納める必要があります。本人が申請しても代理人が申請しても同様に必要な経費です。建物の所有権保存登記の登録免許税は原則4/1000の割合でかかりますが、新築住宅の場合には軽減措置が適用され1.5/1000の割合になります。この場合軽減されるための証明書を取得する必要があります。建物保存登記の費用は2万円程度が目安です。

まとめ

 建物が未登記であっても売買自体をすることは可能であることがわかりました。しかし、未登記のまま売買を行なうと買主にデメリットがあることから、売主もトラブルに巻き込まれるおそれがあります。
 未登記の建物を売買するにあたってどのようにするのがベストなのか、売買仲介を依頼する不動産会社に相談をしながらすすめていくことが大切です。