土地の境界トラブルの事例と対策
家を売却しようと不動産会社に相談したら『測量していますか?』と聞かれました。
『測量』って?
普段何気なく使って過ごしている家ですが、実は『境界』によって自宅の区域が守られているのです。境界や測量について、整理しておきましょう。
事例紹介
境界が争いになるケースにはどのようなものがあるでしょうか。
1.境界標を移動、破壊、撤去した
道路工事をするときに道路と敷地の境界標がなくなってしまった。隣との境になっていたブロック塀を取り壊して作り直したときや家を建て替えたときに工事業者が境界標も一緒にはずしてしまっていた。
このように本人が知らない間に境界標がなくなっていたり、工事の後に業者がいい加減に境界標を設置しなおしたりしために、誤った位置に境界標が移動してしまっていることがあります。できるなら、道路工事などで境界付近を工事する前に工事会社の責任者と隣地の人を交えて境界標の位置、境界付近の目印との位置関係を確認して、記録し現地の写真を残しておくようにすれば復元が容易にできるのでトラブルを防ぐことができます。
2.現実の占有状況、所有権界と筆界が異なる
以前は今日ほど境界に対して厳密ではなく、ある意味いい加減なところもありました。不動産価格の高騰で土地の価値があがり財産価値が高くなったこと、測量技術が向上したので正確な測量ができるようになったのでより厳密に面積を測ることができるようになったことで、境界に対して厳しい目が向けられることになりました。
3.隣地との境界線上にモノがある
これも以前は境界に対して寛容だったためにおこっていることですが、境界線上に建物の庇(ひさし)など軒先が伸びてしまっていることがあります。クーラーの室外機があったり、排水口があったり、分譲の都合で上下水道管やガス管などが地下部分で越境してしまっていることもあります。
境界は境界線の上下、地下や空中にも及んでいますので是正しなければならないのですが、今まで何も問題がなく過ごしてきているのに改めて是正するためには多額の費用がかかりすぎることがあります。すぐに是正できない場合には、お互いに越境していることを確認して、次の機会に必ず越境部分がないようにすることを確認して、了解事項をお互いが保管しておくことで後日の紛争を防ぐことができます。
不動産売却のための2種類の測量方法
不動産の売買契約をするときに面積に関わる事項として、公簿(登記記録上の)面積をもとに売買代金を決める『公簿売買』と実際に現地を測量する『実測売買』とがあります。
現地を測量する方法として現況測量と確定測量の2種類があります。この2つの違いは基点の求め方にあります。
1.現況測量
現地にある既存の境界杭や境界標、フェンスなど現地で確認できる境界や所有者の指示する基点(ポイント)をもとに測量します。必ずしも隣地の所有者の立ち合いを求めないで行なうため、もとになるポイントがずれていることもあり、あくまでも仮の測量となります。
2.確定測量
確定測量の場合は隣地の所有者に立ち会ってもらい現地で境界のポイントについて同意を得たうえで測量をします。隣地の所有者が同意をしているのでトラブルのリスクが少なく、正式な測量図となります。隣地の所有者の印鑑証明書をつけて実印を押捺した『境界確認書』を同時に作成することで、今後売買や相続が発生し所有者がかわることがあっても有効に引き継ぐことが可能になります。
境界トラブルを解決するための5つ対策
境界のトラブルを解決するためには5つの段階があります。なるべく穏便にすませるためには、法律的な処理も大事ですが、普段の近隣関係がとても大事です。
1.話し合いで解決
隣地の人がお互いに現地で立ち合い境界を確認することがもっとも現実的で費用もかかりません。隣地の人とは長くいっしょにいることになるのでなるべく穏便にすませたいものです。この話し合いで解決するときには、公的な資料を準備したうえで、できれば土地家屋調査士に立ち会ってもらって、後日に紛争の種を残さないように気をつけましょう。
2.筆界特定制度
お互いの認識が異なるために境界線を定めることができない場合に、法務局に申請をして境界線を特定してもらうことができます。この筆界特定の場合は相手が立ち会ってくれなくても、行方不明で連絡が取れない場合でも可能です。法務局は当事者の話を聞いたうえで公的な資料に基づいて境界を特定しますが、この特定された境界に納得できなければ次の段階にすすみます。
3.裁判外紛争解決制度(土地家屋調査委会の筆界特定ADR)
隣接地の所有者がお互いに境界特定に前向きであれば裁判外紛争解決制度を利用することができます。裁判ではなく話し合いの場を、当事者だけではなく土地家屋調査士や弁護士といった公正な第三者と一緒に設ける制度です。
4.調停
話し合いの場を裁判所に移して行います。話し合いの仲立ちとして裁判所が選任した調停委員がお互いの意見を聞いて、公的な資料などをもとに境界を特定していきます。
5.境界確定訴訟
話し合いがどうしてもつかない場合に、裁判所の判断を仰ぐことになります。この境界確定訴訟は、一般の裁判手続きとは若干手続きが異なります。原告(訴える側の人)は請求の趣旨に「境界線の画定を求める」と記載すればよく具体的に境界線の存在を主張する必要がありません。また裁判所は、当事者が主張しない事実を判決の基礎とすることができ、当事者の主張にかかわらず自由に境界線を画定することができます。また、たとえ境界線が不明であっても証明責任がないことを理由に請求を棄却することができません。
「杭を残して悔いを残さず」土地家屋調査士会の標語です。境界の問題は直接隣地の人とのトラブルです。なるべく近所の人とは仲良くしたいものです。
境界についての争いはなるべく軽いうちに、そして話し合いができるうちにすませておくことが、ことを荒立てない、子々孫々にトラブルの種を残さないための良策です。