わかりづらい不動産売却と消費税の関係をやさしく解説
不動産を売った場合、売主が個人の場合は消費税がかからないといわれます。
これは半分真実ですが、半分は間違った解釈です。
ここでは消費税のしくみと課税・非課税の違いや、消費税に関わる届出など、不動産売却と消費税について解説します。
消費税の課税のしくみ
消費税の課税対象をおさらいします。
- 課税される対象者は国内の「事業者」
- 対象となる事業の内容は「資産の有償譲渡と有償貸付」「有償の役務提供」「外国貨物の引取り」
上記の事業のうち非課税となる取引が以下のとおり定められています。
- 土地の譲渡と貸付
- 有価証券の譲渡
- 貨幣・紙幣・小切手・約束手形など
- 利息・信用保証料・信託報酬・保険料・共済掛金など
- 郵便切手・印紙・証紙
- 商品券・プリペイドカード
- 登記・免許・検査・試験・証明などの交付手数料
- 外国為替取引手数料
- 健康保険・労災保険・自賠責保険の対象となる医療
- 介護保険による介護サービス
- 社会福祉法にもとづくサービス
- 助産サービス
- 火葬・埋葬にかかわる役務
- 身体障害者用物品の譲渡や貸付
- 学校教育
- 教科用の図書
- 居住用の住宅貸付
上記のものは「非課税」であり「不課税」ではないことに注意が必要です。
消費税は最終的に消費者が負担するのですが、納税行為を行うのは課税される対象となる事業者であり個人事業者と法人になるわけです。
土地の売買に消費税はかからない
土地は前述のとおり “非課税” になります。したがって土地の売買において、土地代金に含まれる消費税はないのですが、目にみえない形で消費税が含まれている場合があります。
たとえば土地を更地で取得し造成工事を行ったうえで販売する場合、造成工事費には消費税が含まれており、売主は消費税を含んだ造成工事費を上乗せして土地の販売価格を決めます。
結果的に土地価格には消費税が含まれる部分があるのですが、消費税として納税する義務は売主にも土地を購入した消費者にもありません。造成工事にかかわる消費税は造成工事業者が納税するわけです。しかし土地代金を支払う消費者が最終的に消費税分を負担していることに変わりはありません。
同様に事業者が支払う土地取得時の仲介手数料や消費者が土地を購入するときの仲介手数料は不動産会社が納税者となり消費税を納税し、消費者は手数料を支払うときに消費税を最終的に負担しているのです。
建物にはどんな場合でも消費税は課税される
建物はどのような場合でも課税されます。住宅を建築する時、購入する時には必ず消費税が課税されており、消費税を上乗せした価格で取得しています。
では、中古住宅として売却する場合にはどのようになるのか。2つのケースがあります。
- 中古住宅を事業として販売する場合は課税される
- 個人の所有者が事業として販売しない場合は非課税となる
消費税の課税対象は “事業者” に限られているので、事業者ではない個人が所有する不動産を売却する場合は、消費税は非課税になるのです。
繰返しますが、個人だから非課税ではなく、事業者ではない個人だから非課税となることに注意してください。
消費税にかかわる各種の届出
消費税課税事業者には納税義務を免除される場合があります。
2年前の事業期間の課税売上高が1,000万円以下の場合は、原則的に免除されます。
逆にいうと1,000万円を超える売上があった場合、2年後に事業をおこなっている人は、課税事業者になることに注意が必要になってきます。
事業者と消費税の手続きについて次のような種類があります。
- 消費税課税事業者届
消費税課税事業者になったとき
- 消費税課税事業者選択届
消費税非課税業者があえて課税事業者になるとき
- 消費税の納税義務者でなくなった旨の届出
消費税課税業者が非課税業者になったとき
- 消費税課税事業者不適用届出
非課税業者があえて課税業者になりその後元の非課税業者に戻るとき
1番と3番と2番と4番が次のように対になります。
課税業者になる時 | 課税業者でなくなる時 | |
法定 | 消費税課税事業者届 | 消費税の納税義務者でなくなった旨の届出 |
任意 | 消費税課税事業者選択届 | 消費税課税事業者不適用届出 |
課税事業者になるとき、ならないとき、いずれの場合も届出が必要になるのです。
不動産投資と消費税
不動産投資として賃貸物件を取得し賃貸事業をおこない、物件入れ替えのときに物件を売却する場合など、消費税課税事業者となってしまうことがあります。
- テナント物件など非居住用の賃貸事業
- 中古住宅や中古マンションなど賃貸用物件の売却
個人であっても上記に該当する事業をおこなっている場合、2年前に課税売上高1,000万円以上か、1年前の1月から6月までの期間に1,000万円以上の課税売上高があると、その年は課税事業者になってしまいます。
たとえば今年、アパート1棟を3,000万円で売却した場合、建物は800万円と仮定します。2年前には4,000万円でアパート1棟売却していました。建物価格は1,200万円です。
課税事業者になるかどうかの判定は2年前の課税売上です。この場合1,200万円が課税売上でしたので、今年は課税事業者となり、売却した建物800万円に含まれる消費税=約73万円は納税義務のある消費税になります。
ただし今年は1棟のアパート売却だけで終わると、課税売上は800万円なので2年後は課税事業者とはならないので、「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出」を提出しなければなりません。
なお売買契約においては、売却価格の土地と建物の区分をおこなうのは当然ですが、区分されていない場合には固定資産税評価額などで按分して計算します。
以上のようにマイホームを売却するなどの場合は、売主に消費税が課税されることはありませんが、売却した物件が中古住宅・中古マンションであっても「事業」と見なされる場合は、課税事業者になってしまうことがあります。
まとめ
消費税が10%になったことで、将来も税率が上昇する可能性があります。
また、課税される場合と課税されない場合とがあり複雑でわかりにくい税制ですが、消費税が制度化されすでに30年が経過します。
一般の個人が売却する不動産に課税されることは少ないですが、賃貸事業や不動産投資として物件の取得・売却を繰り返す場合は知らぬ間に課税事業者になっていることがあります。
課税事業者は届出が義務になっていますので、不動産売却の際には税務署に問い合わせするなど、確認するようにしましょう。
ONO SAKI アドレス株式会社 法務部 部長
2006年早稲田大学卒業 イエステーション・アドレスに新卒入社
不動産売買仲介営業部へ配属。その後、総務、経理、賃貸などを歴任し
2020年より法務部の新設とともに初代責任者に就任