親子間売買をする際の注意点は?
メリットとデメリット
長く暮らしてきた愛着のある我が家をできれば子供に引き継いでもらいたい、そう考える方も多いでしょう。
どのようなときに親から子供へ名義を変えたいと思うのでしょうか。親子間の売買で注意すること、親子間の売買のメリットとデメリットを紹介します。
親子間の売買を考える3つの場合
- 親にお金を渡したい
- 親の債務整理
親が住宅ローンを組んでいたり、事業のために借り入れをしていたりして、高齢や病気・事故のために返済が苦しくなることがあります。そのようなときに、引き続き親に自宅に住んでもらうために子供が親の借金を肩代わりする目的で売買を検討することがあります。
- 親の介護費や医療費のねん出
高齢になった親の介護施設への入所費用や医療費をねん出するために自宅を売却したいけれど、他人に売却するのは抵抗があるので子供に買ってくれないかと相談することがあります。
- 相続対策
親が高齢になると相続対策も考えておく必要があります。相続人が複数いる場合には不動産だと遺産分割の協議が整わなくて、なかなか相続手続きができないことがあります。そこで同居している子供に買い取らせることで自宅を手当てしてあげることも有効でしょう。
- 贈与の代替
親としては、不動産をただであげても良いけれど、贈与税がかかるので売買をして贈与税を回避することもあります。売買をした場合には譲渡した親に譲渡益があれば不動産譲渡所得税が課税されますが、贈与税よりは少なくなることが多いです。
親子間の売買で気をつけること3つ
売買の当事者は親子間ですから、お互いに気心も知れて安心して取引ができます。しかし、親子間の売買だからこそ気をつけなければならないことがあります。
- 贈与税がかからないように注意しましょう。
- 売買契約書をつくる
売買契約書は第三者に対して売買があったことを証明することができる確実な証拠です。売買をすれば翌年に税務署に対して申告をする必要がありますが、その際に提出する書類になります。
- 適正な売買価格
親子間だから利益よりも情が優先されて、なるべく安く売買したいと思うものです。しかし、売買価格はその実勢価格(時価)でなければなりません。実勢価格よりも大幅に安い金額で売買をすると税務署はその差額について贈与だと認定し、贈与税を課します。
そのため、次のことに注意しましょう。
- 売買代金の適正な基準は実勢価格となります。
実勢価格は近隣類似の実際の不動産の売買事例によります。
そのため不動産会社や不動産鑑定士による適正な評価をしてもらうと安心です。
- 不動産会社や不動産鑑定士に依頼すると費用がかかるので避けたい場合には国土交通省の公示地価を参考にしたり、税務署が公表する路線価を参考にしたりして売買代金を決めることもあります。
この場合路線価を1.25倍した金額を下回らない方が無難です。
路線価は実勢価格の8割だとすることが根拠です。
路線価額そのままでもよいとする裁判例もありますが、トラブルをさけるために上記の基準によって売買価格を決めるのがよいでしょう。
- できるだけ不動産会社や税理士などの専門家に詳しいことを相談することをおすすめします。
国税庁『著しく低い価額で財産を譲り受けたとき』
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4423.htm
- 実際にお金の授受をすること
親子間の売買だから売買代金の支払もルーズになりがちです。
しかし、実際に代金の授受がなければ税務署は売買ではなく贈与だと認定し、贈与税を課税します。
そのために、売買代金は現金での授受はさけて、振込などの客観的な証拠を残しましょう。また、領収書も発行してください。
- 住宅ローンが通りにくい
親子間の売買では住宅ローンを組みにくいことが多いです。親子間の売買では不動産会社を仲介として利用しないことが多くあります。
仲介業者は重要事項説明書を作成し、その不動産の用途地域やガスや水道の供給、土砂災害警戒区域などの防災情報等を提供しますが、融資する金融機関にとって、この情報は不動産評価をするための重要な情報になります。ただし仲介業者が不在ならこの情報が手に入りません。
また、親子間の売買を仮想して不正な取引が行われるのではないかと危惧して融資に消極的な金融機関もあります。
- 他の相続人に話をしておく
特に相続対策として子供の名義に変える場合には、名義にしない他の兄弟などとよく話をして、わだかまりがないようにしておくことが大事です。いざ相続が始まった時に、無用なトラブルがないようにしたいものです。
親子間の売買のメリット5つ
親子間だからこそのメリットがあります。
- お互いに知っているので安心して売買できる
第三者である他人との売買ではないので、境界確認や隠れた瑕疵の確認、売却による売主の義務に対しての不完全履行を請求される心配がありません。
- 支払いや引渡しの条件を柔軟にできる
売買代金の支払時期や不動産の引渡し時期、瑕疵担保責任などの条件をお互いが納得できるように厳しくしてもゆるくしてもよく、柔軟に定めることができます。
- 相続対策としても活用できる
相続開始までに親の意向を反映して名義を変更できます。複数の相続人がいれば遺産分割協議がなかなか整わないこともありますが、スムーズに相続手続きができます。
- 外部に経済状況がもれない
親の債務整理のために親子間の売買をする場合に、親子間で契約から決済まで完了するので、第三者に経済状況がわかりません。
- 住み続けることができる
親子間の売買ですから、売買が完了しても引き続き親の希望でその家に住み続けることができます。家賃を定めることも自由にできます。
親子間の売買のデメリット5つ
親子間の売買にはデメリットもあります。
- 贈与を疑われやすい
注意点で説明しているように、親子間の売買は贈与ではないかと注目されやすいので、売買契約をきちんと作り、その支払も明確にしましょう。
- 税務上の特典が使えない
親子間の売買では第三者との売買と比べて使えない税務上の特典があるので注意が必要です。
- 自宅の売買でも3000万円の特別控除などが使えません。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 10年超所有軽減税率の特例が使えません。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
- 住宅ローンが残っているマイホームの売却の譲渡損失の特例が使えません。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3390.htm
- 生計が同一の場合は住宅ローン控除が使えません。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1214.htm
- 子供が自分の住宅ローンを組めなくなるおそれがある
親子間の売買で住宅ローンを組んでいれば、子供が自宅を購入したいときに子供の名義で住宅ローンを組めないおそれがあります。持家は1個とするのが金融機関の原則です。
また返済能力から重ねてローンが組めないこともあります。
- 買主が自分で住まなければ税金が高い(減税がない)
自分で住む住宅を購入した場合には登録免許税や不動産取得税の軽減が適用されて減税されますが、自宅として使用しない場合には適用がありません。たとえば、自宅として購入した条件に適合する建物の移転登記の登録免許税の税率は3/1000ですが、自宅でない場合には20/1000の税率で計算されます。
- 専門家が関与しないと不備があるおそれ
親子間の売買ということで、費用をなるべくおさえるために自分たちだけですすめることが多いですが、どうしても不備があって時間やお金が余分にかかることがあります。
できるだけ、専門家に相談をしながらすすめましょう。
- 税金・・・・・税理士
- 契約書・・・・宅地建物取引士(不動産会社)
- 登記手続・・・司法書士