ローン返済中の不動産を売却するには、売買代金で借金の返済が可能かどうか確認しなければなりません。ローンの借入にさいしてはほとんどの場合抵当権が設定されています。
抵当権が設定されたままの不動産を売却することは法的に可能ですが、普通は抵当権を解除してから買主に所有権移転します。なぜなら抵当権は所有権を阻害する効力を持っているからです。
ここでは住宅を売却するさいに必要な、抵当権解除の条件について解説します。
売却理由のバリエーション
不動産に抵当権が設定され残債がある場合のほとんどは住宅ローンです。マイホームの売却は次のような理由やシーンでおこなわれることが多いものです。
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- 別の住宅を購入する為に売却する “買い替え”
- 家族との同居や施設入所による “不動産処分”
- 転勤による “住替え”
- 離婚による “財産分与”
- 遺産分割のために “不動産処分”
- 住宅ローンの返済が滞り借金清算のための “不動産処分”
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どの理由であれ共通するのは売買代金で残債を返済し、抵当権の解除と抹消登記をおこない買主に引渡すことです。
買い替え住み替えの売却
現在のマイホームを売却し新居を購入する場合、あるいは老人ホームなどに入所することになり、これまでの住まいを売却しようとすることもあります。転勤により住まいを処分することも、これらは「買い替え住み替え」と分類できます。
このケースのなかでむずかしい条件をクリアしなければならないのが「買い替え」です。
『自宅を住み替える買い替える時に知っておきたい賢い方法と手順』で説明したように、現在の住宅を売るタイミングと新しい住宅を購入するタイミングにより、二重ローンや買換えローンが組めるかどうかが問題となるのです。
単に売却するだけであれば、新しい住まいを探し引越しの準備をするなど、あまり売却のタイミングに左右されることなく決めることができます。ただし売却されて売買代金が受領できるまでの期間は、ローンの返済が継続しますので新しい住まいの家賃などを考慮した、家計チェックが必要であることはいうまでもありません。
財産分与と遺産分割
財産分与や遺産分割はそれぞれ財産を取得する人たち全員に対し、取決めしたとおりに財産を分割できる場合、不動産を売却する必要はありません。しかしどうしても不動産を売却し “現金化” しなければ分割できない場合があるのです。
具体的な例を示すと以下のようなことです。
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- 財産分与する元夫婦の全財産が、不動産1千万円、預金5百万円であり、この合計金額を折半する
- 相続権者が3名(配偶者1名、子2名)おり、不動産2千万円、預金1千万円を法定相続する
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上記の場合は不動産を現金化しなければ財産を分割できず、不動産を売却しなければなりません。
本来は売却したくない不動産という場合もあります。居住中の住宅では残された配偶者が生活していることもあるでしょう、しかし売却せずに財産分割ができなければ止むを得ないことなのです。
ただし、遺産分割の場合は2020年4月から施行された「配偶者居住権」により、法定相続による分割であっても住宅を売らずに済む場合があります。
配偶者居住権については、法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」を参照してください。 |
遺産分割の場合は、残債があり抵当権が設定されているケースは少ないと思われますが、財産分与では「連帯保証」や「連帯債務」に互いがなっているなど、売却してローンの清算が必須といえることもあるのです。
所有権移転に必要な負担の消除
ローンの残債があり抵当権が設定された不動産の売却は、引渡しまでに「所有権の行使を阻害する負担の消除」をしなければなりません。
代表的なものが「抵当権」の設定であり、売主は引渡しまでに抵当権の解除と、登記の抹消を準備しなければなりません。
抵当権解除と抹消登記
抵当権とは債務者が債務不履行した場合、担保とした不動産を売却し債務の履行をおこなえるように、債権者の権利を保全するものです。
抵当権が設定された不動産であっても、買主が承諾すると自由に所有権の移転は可能ですが、抵当権が残ったままの状態で不動産を購入するケースは、ほとんどないといえるでしょう。
抵当権を解除するにはローンの残高全額を一括返済する必要があります。そのうえで「抵当権抹消登記」を申請することができるのです。
抵当権の抹消は融資残高がなくなるといつでもでき、売却により所有権の移転がおこなわれるまで、そのままになっているケースもあります。その場合は登記上抵当権が設定されていても、融資残高がなくなっており実質的に抵当権の効力は失われており、簡単に抹消登記が可能です。
売買金額とローン残高
不動産を売却し残債をきれいに清算するには、売却価格はローン残高よりも高くなくてはなりません。売主は仲介手数料の支払いもあるので、売却価格は次のように考える必要があるのです。
売却価格≧ローン残高+仲介手数料+その他の清算金+譲渡所得税相当分
固定資産税の滞納があり、仮差押え登記がされていることもあります。そのような「その他の清算金」を売買代金から支払うこともあり、必要資金を正確に計算したうえで売却価格を決定しなければなりません。
売却代金からローン残債を完済できない場合は、自己資金を充当するか別の借入金を調達するなどの方法を講じる必要があります。
任意売却とは
住宅ローンの返済がむずかしくなり、担保となっている住宅を売却するしか方法がない場合、売れると予想される価格では住宅ローンの残高に満たない場合があります。
売却できずまた返済もできない場合は、放っておくと金融機関は強制的に売却し融資金の回収を計る「競売」に進んでしまいます。
競売は民事執行法にもとづく債権回収手段であり、ローン残高に満たない価格で落札されても抵当権は解除・抹消できるのです。
競売は売却価格が相場よりかなり下回る傾向があり、金融機関と債務者にとって負担が大きいといえます。そこで相場に近い価格で売却できる可能性の高い、「任意売却」による担保物件の処分方法が広まってきました。
任意売却は法律にもとづくものでなく、債権者である金融機関と債務者である住宅所有者、そして売却の仲介をおこなう不動産会社が連携し、売却価格がローン残高に満たない場合でも抵当権を解除し、売却処分を可能にする方法です。
任意売却の詳細にはついては『任意売却のメリットとデメリットを徹底解説』を参照してください。
まとめ
ローン残債のある場合、売却しても残債をすべて一括返済できない状態では、通常の売却はできません。売却をスタートさせるときには、抵当権の解除が可能かどうかを検討することが重要です。
不動産査定価格がすでに残債を下回る場合は、自己資金の持ち出しができる以外、売却は不可能と考えましょう。またローン返済に困窮するような状態の場合には “任意売却” により、解決する方法があります。