引渡しは不動産売却最後のプロセスであり、代金の受領によって目的が達成されることになります。
不動産は手に取って確認できる商品と異なり、法的根拠にもとづいた登記手続きにより所有権が移転します。そのため売買代金の授受は所有権移転が確実におこなわれることを前提としているのです。
ここでは引渡しと代金決済の手順、そして引渡しに向けて売主が準備すべき書類などについて解説します。
書類の確認と作成
引渡し時に必要な書類には事前に準備するものと、引渡し時に作成する書類があります。引渡し当日は短い時間のなかで記名押印の動作がつづき、あとになって書類の内容がわからなくなることがあります。
事前によく理解しておくようにしてください。
所有権移転登記に必要な書類の確認
引渡しには多くの書類が必要です。詳細は『不動産を売る時に必要な書類と事前準備』で確認いただきますが、売主が準備した書類のなかから、所有権移転に必要な以下の書類を司法書士が確認します。
- 登記済権利証または登記識別情報通知
- 印鑑証明
司法書士の書類確認が終了すると、司法書士が準備した次の書類に記名押印します。
- 登記原因証明情報
- 委任状
その他書類の確認と作成
所有権移転登記に必要な書類以外にもたくさんの書類があります。
重要事項説明時に説明を受けた事項について、添付書類に含まれていない書類については引渡し時に買主に渡します。
建築時の図面や設備機器の取扱説明書、マンションの管理規約や管理組合提出用の書類など、重要な書類も含まれており、ひとつずつ確認し説明しながら引渡しします。
売主が準備する書類以外に、不動産会社は次の3種類の書類を用意することが一般的です。
- 引渡し確認書
- 清算金日割り計算書
- 代金などの領収書
- 鍵の受領書
以上の書類については、売主・買主双方が必要に応じ記名押印します。
売買代金の受領
売買代金の支払いは司法書士が必要書類を確認し、登記申請書類の準備がすべて完了した時点でおこないます。
買主から売主へ、逆に売主から買主へ支払う金銭もあります。
売買代金 | 売主 | ⇦ | 買主 |
租税公課 | 売主 | ⇦ | 買主 |
管理費・修繕積立金 | 売主 | ⇦ | 買主 |
家賃・敷金 | 売主 | ⇨ | 買主 |
電柱敷地料 | 売主 | ⇨ | 買主 |
温泉権利金 | 売主 | ⇦ | 買主 |
代金の授受は基本的に “現金” とされていたのは、ずいぶん昔の話で、現在は銀行口座間の振替または振込が安全であり、キャッシュレスでおこなわれるのがほとんどです。
ほかには保証小切手による方法もありますが、 “偽造” というリスクを考えると、銀行口座間での移動が間違いありません。
売主と買主が同一銀行に口座がある場合には、出金・入金を同時に手続きすることにより、あまり時間をかけず処理できますが、銀行が異なる場合は振込でおこなうことになります。
振込は売主口座に代金が振り込まれるのを待たなければなりません。
売買代金の支払いがおこなわれ、売主の銀行口座に着金確認できた時点で、司法書士は登記申請をおこなうため法務局に向かいます。申請手続きは引渡し当日におこなわなければなりません。
また、司法書士への登記費用の支払いは、このときに買主がおこないます。
引渡し時の登記手続き
所有権移転登記申請の手続きは売主の義務であり、代理人として司法書士が委任を受けおこなうことになります。その意味で売主には “申請手続きの完了” を確認する必要があるので、司法書士に同行し確認するケースも稀ですがあり得ることです。
決済・引渡し手続きは、金融機関の打合せコーナーや会議室を利用しておこなうことが多いのですが、司法書士が法務局に向かったあとは、仲介手数料の支払いや、買主が売主から聞いておきたいことなどについて話し合われる時間にすることがほとんどです。
登記申請手続きの完了確認は、「登記書類受領書」の交付によりのちに確認することができるので、司法書士に任せたままでかまいません。
所有権移転登記のさいには、次のようにその他の登記手続きも同時におこなうことが多いです。
所有権移転登記以外の登記申請
売主が借りていた融資金は売買代金により完済するか、事前に完済されているので抵当権抹消登記をおこないます。抹消登記に必要な書類は融資を受けていた金融機関が準備し、司法書士が書類一式を預かり所有権移転登記申請と同時に申請します。
物件が中古住宅などの場合は買主が住宅ローンを利用することが多く、買主に融資をおこなう金融機関の抵当権設定も必要になります。
以上のように所有権移転以外の登記申請もこのとき同時におこないます。また、所有権移転登記申請前におこなわなければならない登記もあり、以下のような登記は売主が事前に登記を済ませておかなければなりません。
- 地目変更登記
住宅が建っていても地目が「原野」や「雑種地」のままになっている場合は、事前に地目変更登記が必要です。
- 土地の分筆・合筆登記
土地を分割して売却する場合や、細かく分割されている土地を1筆に合筆する場合は、それぞれの登記が必要です。
- 滅失登記
古い建物が建っている土地を「更地渡し」条件で売却する場合は、引渡しまえに建物を解体し滅失登記を済ませなければなりません。
まとめ
引渡しの手続きはおよそ1時間程度のものです。書類の確認・作成は主に司法書士が主導しますが、売主買主が相互に引渡し確認をおこなう重要な書類もあります。
売買代金の受領方法はいくつかありますが、できるだけ安全な方法を選択するようにしたいです。
また仲介する不動産会社の役割はここで終了します。
以後、売主は翌年の確定申告時期にあわせ、譲渡所得計算の準備などをおこなうことになります。