不動産売却に関する情報をインターネットで調べていると、「仲介料無料」というキャッチコピーを目にすることが多くなりました。

不動産仲介は仲介手数料が唯一の収入です。収入源をゼロにするというサービスはビジネスとして成り立つものなのでしょうか? 仲介料無料は売主としても無関心ではいられないことです。

ここでは仲介料無料で仲介業務が可能になるしくみと、売主にとってのメリットを探ってみます。

 

 

仲介手数料のしくみ

仲介手数料を不動産会社の立場からみると、次の2つのパターンがあります。

                [両手手数料

売主から売却を依頼された不動産会社が買主を探しだし、買主からも仲介手数料を受領できるパターンを「両手」といいます。

                [片手手数料

売主から売却を依頼された不動産会社は売主から仲介手数料を受け取り、買主から買付を依頼された不動産会社が買主から仲介手数料を受領するパターンを「片手」といいます。

仲介手数料は上限金額が宅地建物取引業法で定められていますが、下限はありません。極端にいうとゼロでもかまわないことになっています。

売却を依頼された不動産会社には手数料を受け取るシチュエーションとして、次のようなバリエーションがあります。

 

売主

買主
両手の場合受取る受取る
受取る無料
無料受取る
片手の場合受取る

買主側に仲介する不動産会社が存在する片手の場合は、売主からの手数料がゼロになると無収入になりますが、両手の場合はうえのように3つの方法を選択できるのです。

売主と買主の両方から受取るのはオーソドックスですが、買主から手数料を受領できる場合は売主からの手数料をゼロにする、あるいは半額にするなど、売却依頼を受けやすくする方法を営業方法として採用することがあるのです。

あるいは売主からは普通に手数料を受取りますが、買主からはゼロや半分にするなど、買主をみつけやすくする方法を採用することもあるでしょう。

両手手数料のパターンが描けるからこそ、不動産会社が採り得る「手数料無料」の営業戦略といえるのです。

 

 

手数料無料の不動産会社は信用できるのか?

以上のように不動産会社が打ち出す「手数料無料」は、けっして無謀な方法でもなく不自然なものでもありません。

平成29年までの土地売却件数をみると、リーマンショックを過ぎて回復傾向はみられますが、微増という傾向がみてとれます。

引用:不動産ジャパン「平成30年版土地白書の公表について」

土地建物の所有権移転登記個数でも横ばいという傾向がみられます。

引用:公益財団法人不動産流通推進センター「2020不動産業統計集 3不動産流通」

他の業界でも同様ですが不動産仲介業界でも、大手企業への物件集中傾向がみられ、中小零細の不動産会社が売却物件を増加させる方法として、仲介手数料無料をインセンティブとして捉えるのは理解できることなのです。

手数料無料とする場合は、客付け会社だけが頑張って元付け会社はなにもしないとう、「元付け特権」は成立しません。そのため真剣に仲介活動を頑張ることが期待でき、早めに売りたい場合など効果が期待できそうです。

 

 

宅建業者数の増加による競争激化

手数料を不動産会社が自ら下げるようなことは、以前は考えられませんでした。あり得ないことが現在起こっています。理由として宅建業者の増加がひとつの要因と考えられます。

平成25年度までは減少傾向がつづいた宅建業者数は平成25年度末から上昇に転じ、法人業者にしぼると平成26年から令和元年までで、約7%の増加がみられるのです。

企業規模の小さな事業所割合が高く、全業者数に占める4人以下の規模事業者は84.2%にもおよびます。

出典:一般財団法人不動産適正取引機構「令和元年度末 宅建業者と宅地建物取引士の統計について」

加えて前述したように仲介物件は大手に集中する傾向があります。知名度が高く広告宣伝に多額の費用をかけられる強みがあるからでしょう。

売主としては仲介手数料を普通に受け取る会社を選ぶか、無料や半額になる可能性のある会社を選ぶか悩むところだと思います。

仮に無料や半額になるからといって、手を抜いた仕事をするとか真面目に取り組まないなどのことはありません。何故なら仲介業は成功報酬だからです。

またどの会社も宅建業法にもとづいた免許を受けていますので、法律にしたがった業務内容であることに変わりはありません。

重要なことは、ある程度の期間をつき合うことになる会社です。相談しやすく頼りになりそうな会社や担当者を選ぶことに尽きるでしょう。

 

 

売主にとって何の意味もない仲介手数料無料

仲介料無料をアピールする会社のなかには、買主にとって無料ですが売主にとっては絶対に無料にならないケースもあります。

それは売主が不動産会社である物件を販売しているケースです。

仲介する会社は、売主会社からの仲介手数料だけでビジネスをし、買主の手数料をゼロにすることにより、購入しやすくしているのです。

また媒介ではなく代理による取引の場合は、売主会社から受取る手数料は通常の倍になるので、仲介会社にとっては両手手数料と同じ報酬であり損をすることはありません。

インターネット広告で “手数料無料” とうたっている場合、このような買主だけが無料ケースもあるので確認してください。

 

 

両手手数料からエージェント制への転換

アメリカの不動産業界では「両手仲介」は禁止されています。

日本においても両手仲介を禁止しようという国会での動きがありました。しかし業界とくに大手仲介不動産会社の抵抗もあり、立ち消えとなっています。

両手仲介はいわば、弁護士が争っている双方の代理人を一人で務めるようなもので、 “利益相反” にあたると指摘されています。

アメリカでは必ず売主と買主に、別な不動産会社が代理人やアドバイザーとして関り、不動産取引がおこなわれる「エージェント制」になっているといわれます。

なお両手仲介は “囲い込み” の原因ともいわれており、いろいろ議論がされています。

囲い込みについては

不動産を早く売るための方法と高く売る方法の違い』を参照してください。

日本においてもエージェント制が定着するようになると、「囲い込み」や業界用語として知られる「干す・値こなし」などの悪弊がなくなり、売主にとっては透明性の高い不動産売却が可能になると考えられるのです。ただし仲介無料といった変則的なサービスは、なくなる可能性はあるのでしょう。

 

 

まとめ

仲介手数料無料の不動産仲介について解説しました。3%程度の手数料ですが、間違いのないトラブルのおこらない不動産取引には必要なコストでもあります。取引のしくみのうえで “仲介料無料” となるケースも実際にあることですが、「無料」にこだわり業者選択をおこなうのは本末転倒になりかねません。

仲介を依頼する不動産会社の選択は、信頼性を最優先することが重要です。