不動産を売買し引渡しをおこなうには、売買代金以外にも売主・買主との間で清算をし、売主から買主へ引き継ぐお金があります。また売買契約時にはほとんどの場合、手付金が授受されますが手付は売買代金の一部ではありません。
不動産売買契約において売買代金以外に授受される金銭とはなにか? 重要事項説明で必ず説明されるお金の目的と金額について解説します。
手付金
手付金は売買代金と異なるため、「売買代金以外に授受される金銭」に該当します。
手付金は売買契約時に買主が売主に交付する金銭ですが、売買代金と異なるといわれると違和感をもつかもしれません。『売買契約時に受け取る手付金の意味と目的』で説明したように手付金は代金の一部として受領するものではなく、契約が解除されることなく引渡しに至った場合に、代金の一部として充当されます。
つまり引渡しまでは “代金の一部ではない” ことを理解しておいてください。
また、手付金額について売主が不動産会社ではない場合は制限がなく、売主と買主の合意により金額を決めることができますし、場合によっては手付金がゼロの契約もあります。
一方、手付金額が売買代金の1%など少額な手付になることもあります。この場合、解約手付として授受するのであれば少額でも手付解除は有効であり、 “解除されやすい” という面があることをつけ加えておきます。
公租公課の清算
不動産売買で代金以外に授受される金銭として一般的なのが、固定資産税と都市計画税です。
固定資産税は課税標準額に1.3%の税率で計算される市区町村税、都市計画税は課税標準額に0.4%の税率で計算される市区町村税です。
1月1日時点の所有者に納税義務があり、毎年4月~5月に納税通知書が届くようになっています。
不動産売買では税金の負担を、引渡し日を境に売主と買主が分担することが一般的です。
- 1月1日から引渡日の前日までが売主負担
- 引渡し日から12月31日までを買主負担
とすることが多いのですが、売主が法人で決算期が3月末の場合、起算日を4月1日とすることもあります。
納税通知書が4月以降になるため、1月から4月までの期間で引き渡しがある場合、当年度の税額が確定していないケースがあります。そのため前年度の税額により日割り計算をし精算することが多いです。
なお上記清算金に対し、国税庁は譲渡による収入金額であるとしていますので覚えておきましょう。
参照:国税庁「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」
管理費と修繕積立金
区分所有マンションの売買では、必ず清算する金銭に「管理費と修繕積立金」があります。
売主は毎月、管理組合にこれらの費用を支払っていますが、翌月分を当月中に支払っているケースや、当月分を当月初めに支払っているケースがあります。
引渡し時には日割り計算による清算が必要です。
管理費・修繕積立金については売主が滞納しているケースもあります。これら費用の支払い義務は買主に承継されるため、必ず決済・引渡し時に滞納の解消がおこなわれるよう、仲介する不動産会社は確認しなければなりません。
重要事項説明では説明義務のある項目でもあり、仲介会社の調査不足により滞納の事実や滞納額が不明だった場合、仲介会社の債務不履行が指摘された裁判事例もあるのです。
家賃・共益費と敷金
賃貸物件の売買では家賃・共益費・管理費など毎月の収入の日割り分と、預かり金である敷金が売主から買主に引渡される金額になります。
引渡し日を境に引渡し日前日までが売主の収入となり、引渡し日以降は買主の収入となります。また敷金は入居者の退去時に買主から返還する預り金なので、引渡し時点で売主が預かっている敷金全額が買主に移管されます。
滞納家賃に関しても同様の考え方なので、引渡し時点において滞納のある入居者については、引渡し日前日までの賃料が買主のもとに入金された場合は、後日買主から売主に送金することが必要になるのです。
礼金を売主が受領している場合もありますが、礼金は賃貸借契約締結に対し入居者が支払う “お礼” の意味があり、売主が100%受取ってよい収入です。清算対象にはなりません。
電柱敷地料と線下補償料
電力会社の電柱が敷地内にある場合や、高圧線が敷地上空を通っている場合には、電力会社との契約により電柱敷地料や線下補償料を受け取っています。
高圧線の場合には「地役権」が登記されていると、一括で補償料を受け取っているケースが多いのですが、一部を年払いで受け取っていることもあります。
一括で受け取っている場合は、その時期はかなり過去のことでもありますし、高圧線下の土地ということで売買価格にも反映されており、買主に対して一括補償料を按分する必要はありません。
しかし、年払いなどで受け取っている敷地料や線下補償料については清算の必要があり、引渡し日を境に日割り計算により清算します。3年分前払いされているケースもあり、売主は受領記録を保管しておく必要があるのです。
温泉権利金
温泉つき分譲地など、温泉を利用できる地域では「温泉権」が設定されています。不動産の取引とともに売買対象になり得る権利で、なおかつ不動産に付随するものではなく別個の権利です。
売主は不動産価格と別に温泉権価格を決めることができ、温泉権の売買として代金が授受されます。
なお、温泉権には次のような種類があり、一般的に温泉つき分譲地や温泉つきマンションの場合は「分湯権」をいうことが多いようです。
湯口権 | 温泉を汲み上げる権利 |
引湯権 | 源泉から引き湯して利用する権利 |
分湯権 | 引湯権者から温泉を分けてもらえる権利 |
温泉の使用料金は売主が使用していた期間までの負担分は、水道料金と同様に温泉管理者との間で使用料金を確定し清算しなければなりません。
まとめ
売買代金以外にも売主・買主間でやり取りするお金について解説しました。
これらの清算やお金の移管は引渡し時におこないます。
とくに固定資産税・都市計画税は清算したとしても、その年度分の支払い義務は売主にあります。忘れず年度内に納めるようにしましょう。