不動産の売却はほとんどのかたにとって初めてのこと、人生のなかでそんなに多いものではありません。やりとりする金額は “億” の単位になることもあり、どのような手順で売却するのか、手続きは面倒なのか時間がかかるのかなど、わからないことだらけではないでしょうか。
不動産の売却はほとんどの場合、宅地建物取引業法にもとづき国家資格者である「宅地建物取引士」が、公正で安全な売買取引ができるよう関わります。
専門家により進められる不動産売買ですが、売主としても大きな責任を負う場合もあり、不動産取引に対する充分な知識を持っていることが望まれます。
ここではまず基礎的な知識として、不動産売却の手順と基本的な流れについて解説します。
不動産査定により売却価格を決定
不動産を売却する手順の最初は「不動産査定」です。
査定をおこなう目的の第一は “売出し価格の決定” であり、同時に所有している不動産がどの程度の価格帯で評価されているのか確認する意味があります。
● 長い期間暮らしてきた自宅
● 遊休資産になっていた空き地
● 親から相続した築年数の経た実家
などなど思い入れのある不動産や処分に困っていた不動産など、いろいろな事情があるもので
l 高く売りたい l 早く売りたい |
売却理由によってはできるだけ早く売りたい場合や、価格よりもとにかく早く売却したいという事情があるかも知れません。
どのような事情であってもまず大切なことは、「取引相場」を知ることであり、売却予定の不動産の客観的な評価額を把握することです。
不動産査定を行う方法 不動産査定をおこなうには次のような方法があります。 1. 宅地建物取引業者を選んで依頼する 2. 一括査定サイトを利用する 3. 不動産査定アプリを使い自身で査定する |
売却を依頼する媒介契約の締結
査定結果にもとづき売出し価格と売却を依頼する不動産会社を決定し、媒介契約を締結します。
不動産媒介契約には3種類の方法があり、それぞれメリットやデメリットがあるので、それぞれの違いを理解するようにしましょう。
媒介契約の種類 1.専属専任媒介契約 2.専任媒介契約 3.一般媒介契約 |
不動産会社を選ぶさいには、不動産査定を依頼した宅地建物取引業者から選ぶのが一般的ですが、不動産査定アプリを利用して査定をおこなった場合は、宅地建物取引業者と直接やり取りをしていないケースもあります。
その場合には宅地建物取引業者のリストや、不動産ポータルサイトなどを活用して不動産会社を探しましょう。
宅地建物取引業者のリスト |
売却する事情によっては「不動産買取」により早期に売却する方法や、万が一売却できなかった場合の「買取保証付きの媒介契約」を締結する方法もあります。
仲介会社による販売活動
不動産会社は媒介契約が締結されると、さっそく販売活動を開始します。
媒介契約の種類によってはレインズ(不動産流通機構)に物件を登録、仲介会社のウェブサイトやポータルサイトへも物件情報を掲載します。
日時や期間を決めて購入希望者に内覧をしてもらう「オープンハウス」も大変有効な方法です。オープンハウスは居住中でもおこなうことがあり、都合がつくようであれば積極的に活用したいです。
販売活動は3ヶ月間を一つの区切りとして、媒介契約(専属専任・専任)では定めています。3ヶ月間で購入希望者がみつからない、あるいは広告の反響が悪いなど、売出し価格の変更が必要になることもあり、不動産会社との密接なコミュニケーションが必要になります。
販売活動に関する報告も義務づけされおり(専属専任・専任の場合)、定期的な報告がされているかも確認しましょう。
また専属専任媒介や専任媒介の場合は、「囲い込み」という行為をおこなう会社が稀にいます。誠実な仲介業務がされているかどうかのチェックも必要です。
3ヶ月間の契約期間が終了するころには、引きつづき同じ会社に仲介を依頼するか変更するかを検討しなければなりません。3ヶ月という短い期間ですが、担当者との人間関係が良好にできたケース、あるいは相性が悪くて担当者の変更を要求するか不動産会社を変更しなければならないケースもあります。
大事な資産にかかわることですので、冷静に判断することが大切です。
売買契約の締結
販売活動の結果、購入希望者がみつかると、一般的には「購入申込書(買付証明とも)」を不動産会社は送ってくるか、持参して打ち合わせになります。
売出し価格と同じ金額で購入するという条件であれば、次のような条件を確認して売渡しに同意することが多いです。
1. 決済条件(手付金や融資利用など)
2. 引渡し希望期日
3. その他の希望条件
購入希望額が売出し価格を下回る場合は、仲介会社を通して購入希望者に条件や申込への回答を伝えます。
● 売渡し希望額
● 売渡し条件
● 値交渉の拒否
ある程度の値引き交渉に応じてもよい場合は、不動産会社を通して数回の交渉をおこない、取引価格の合意に至るのです。
価格を含めた条件が合意されると、いよいよ売買契約です。
不動産会社は契約のために必要な書類作成など準備をおこないます。
契約に必要な書類 1. 重要事項説明書 2. 売買契約書 3. 重要事項説明添付資料 |
同時に売主は契約に必要な書類などの準備をしなければなりません。
売買契約の準備 1. 登記済権利証または登記識別情報通知の確認 2. 登記上の売主住所と現住所の照合 3. 印鑑登録と実印の確認 4. 固定資産税・都市計画税の納付状況と金額 5. 賃貸物件の場合は、賃貸借契約書の確認と敷金の残高や家賃の収納状況 6. 固定資産評価証明書 7. 物件現況報告書(告知書)・付帯設備表(売買契約書に添付) |
準備が整ったら売買契約の日時について不動産会社を通して買主と取決め、契約締結に臨みます。
また契約に先立ち買主に対して重要事項説明をおこないますが、スケジュールなど不動産会社に任せるのが一般的です。
決済と引渡し
売買契約の締結と同時に決済・引き渡しになるケースと、契約から引渡しまで期間をおくケースがあります。
契約同時決済になるケースとしては次のような場合です。
契約同時決済になるケース 1. 現金決済であり、抵当権抹消などにかかわる準備の必要がない 2. 融資利用であっても、事前に契約締結の必要がない |
このような場合以外は1ヶ月から数週間の期間をおくことが多いです。
売買契約の締結が終わると、不動産会社と売主は次のような決済・引き渡しの準備をします。
売主が準備する書類など 1. 境界標の明示 2. 登記済権利証または登記識別情報通知 3. 印鑑証明書と実印 4. 住所移転登記が必要な場合は住民票または戸籍附票 5. 預金通帳と届出印 6. 鍵や物件・設備の保証書や取扱説明書 |
確定申告
不動産を売却すると、当該不動産を取得したときの費用と売却のため支出した費用の合計よりも、売却によって得た代金が多い場合には「譲渡所得」が生まれ、譲渡所得の申告が必要です。
譲渡所得があっても特別控除制度により課税が免れる場合もありますが、その場合でもやはり申告が必要になります。
消費税についても注意が必要です。
売買される建物には消費税を課税するのが原則です。ただし売主が事業者ではない場合には非課税となること、また事業者であっても非課税事業者の場合は課税されません。
ネットでは『個人が売主の場合、消費税はかからない』と表現しているケースがありますが、正確には事業者ではない個人と非課税事業者であれば課税されないということであり、個人でも消費税の課税があるケースがあるので注意しましょう。
確定申告は不動産を売却した年の翌年、確定申告期限までにおこなう必要があります。
まとめ
不動産売却の基礎的なことについて説明しましたが、予定している不動産が無事売却されるまで、相当な期間がかかるものです。
むずかしい物件であれば数年という時間を費やすこともあります。
依頼した不動産会社の選択を間違えたのだろうか、あるいは売出し価格が高過ぎただろうかなど、悩んだり迷ったりすることもあるかもしれません。
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